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旅するPowerBook

7 ; ジャンク鴉、500

550cの函
 手元に4台の500シリーズがある。モノクロの520が2台、カラーの520cと550cが1台ずつ。インターネットのフリーマーケットで手に入れた520を除き、他の3台はジャンク品を購入したものである。500シリーズは、ここに名をあげた3種類に加えて、モノクロの540とカラーの540cが発売された。このうち540は日本で発売されなかったし、最高機種の550cを持っているのだから、540cにはこだわっていない。参考までに購入時の値段を記せば、520が8,000円、520cが10,000円、550cが20,000円。フリーマーケット経由の520は30,000円以上した。いずれにしても、私は安く手に入れている。ジャンクだし、購入してから整備に時間と金をかけたとはいえ、動作には何の問題もない。トラックボールに代わるトラックパッドや、ステレオスピーカ、Ethernetポートの採用。バッテリを2個装着しての駆動時間拡大。オプションながらPCカードスロットの設置。こういった機能は、500シリーズの登場で実現したものだ。新製品として発売された当初、550cは700,000円だったし、最も安い520だって300,000円以上していたのだから。今ならG3マシンが買えて、じゅうぶんなお釣りがくる。
 BlackBird、すなわち「鴉」というコードネームで作られた500シリーズは、多くの人が、デザインの秀逸さを讃める。ノート・タイプのパソコンといえば、無駄を切りつめ、直線を主にデザインされた、平たい弁当箱というイメージが強い。しかし500シリーズの魅力は曲線にある。CPUやらメモリの搭載量といった中身だけでなく、外観のデザインも性能であり、人をひきつけるということを、500シリーズほど訴えたマシンはないだろう。ディスプレイを閉じれば弁当箱にも見えるが、開いてみれば、ディスプレイ両側の上部に、あたかも翼のごとくに内蔵スピーカー部がせり出し、キーボードの手前に設けられたパームレスト部は、カーヴを描きながらなだらかに下降している。500シリーズ以前の100シリーズやDuoシリーズが灰色の筐体だったのに対し、こちらは灰色と黒の組み合わせ。さらに550cは黒一色と、コードネームそのまま鴉を思わせる色彩性だ。その後のPowerBookには、2400を始め、今日のG3マシンと、曲線を多用したものが多いが、500シリーズはその嚆矢。94年の登場以来すでに6年が経過したが、その魅力はあせていない。今も、この原稿を書いているそばで稼働しているが、見れば見るほどほれぼれする。
 540cが、トム・クルーズ主演の映画『ミッション・インポッシブル』で大活躍したのはよく知られている。映画の中身は、いうまでもなく諜報戦、スパイ同士の暗闘である。最先端の情報を操る人間が持つのにふさわしいものとして、540cは認知されたのである。もちろん、映画だから外見を重視したということだろうが、外見のスマートなものは、中身もスマート。中身がすぐれたものは外見も優れている。この真理にかなったマシンが540cだといった方が、話は早い。CIC・ビクタービデオから発売されたビデオの付録によれば、映画がクランクインしたのは95年3月。クランクアップは半年後の8月。撮影が始まった時点での最高機種として、540cが選ばれたはず。550cは95年5月の発売で、使おうと思えば使えたはずだが、これは日本だけの限定販売品だった。トム・クルーズはその存在を知っていたのだろうか? 2000年封切りの姉妹編『M:I-2』ではG3マシンが活躍していた。3作目が作られる時には、どんなマシンが登場するのか。今から楽しみだ。
 それにしても、『ミッション・インポッシブル』の540cは、なかなか強力である。敵のコンピュータ網に忍びこんで情報操作を行うのはもちろん、画面を六分割して、ライヴ映像での遠隔監視を行うなどしてみせる。インターネットを使った連絡や情報収集など、今でもうらやましくなるほど高速である。まさかあんなことできるはずがない、540cをベースにして改造を施したマシンだと指摘したくなるが、それはもちろんそうなのだろう。スパイがアップルの販売店から機械を買って、拡張や増設もせずにそのまま使っているはずがない。スパイでない私たちでさえ改造を楽しんでいるのだから。彼らにとっては命にかかわる道具である。事実、劇中で情報操作をしていたエミリオ・エステベス扮するスパイが、逆操作を受けたあげくに命を落としている。まさか私たちがPowerBookでそんな目にあうとは思われないが、しかし、単なる趣味のマシンでなく、それを使って生きている人であれば、スパイのごとく、PowerBookに、人生の思いもよらない場面を左右されるはずである。
 ただ、手元の500シリーズマシンに限っていえば、おそらく重大事には遭遇しないだろうと思っている。550cでさえ、システムは7.5なのだ。OS8も使えるとインストールはしてみたが、負担が大きすぎたので初期化した。ISDNも可能ではないかとTAと接続したが、うまくいかないので一日かけて諦めた。PowerPC化すればいいのかもしれないが、残念ながら経済の余裕がない。そこで逃げるつもりはないが、私はメイン・マシンにこそお金をかけたい。現在なら、G3/333に、である。美しいエディタ・マシン、あるいは外付けCD-ROMドライヴコントロール・マシン、それが私にとっての550c。スパイ戦になど、とうてい使えないのである。
 ----ただし、この原稿、ここで終わりそうにない気がする。つまり550cを始めとする500シリーズとのつきあいは、これから先、形を変えながら続きそうだ。550c用のキーボードを約2,000円で購入して、520cに取りつけたばかり。キータッチをいろいろと試したいためである。状況が変化するたび、これからも新たな報告をしていくことになるだろう。




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