ここをクリックしてください。



旅するPowerBook

4 ; PowerBook古本説


 PowerBookは本に喩えられる。VAIOは人気だが、どう考えても本とはいえない。ましてやThinkPadなど、本とはいえず、あれは言葉どおりの帳面。しかしPowerBookには、本という言葉が織りこまれている。となると、オールドPowerBookは、古本か。きっと、そうなのだろう。古くなったVAIOは、ただの古VAIO。ThinPadは古ThinkPad、古帳面でしかない。しかし、PowerBookは古本として、古くなってからも価値を持つ。
 PowerBookに思い入れを持つ理由に、かつて古本好きであったことがあげられよう。生まれたて、できたて、新品そのものというより、私は落ち着いた風情のものを好む。真っ白でしみひとつ見当たらないようなものは、見ていて気恥ずかしい。わざわざ汚そうとは思わないが、気恥ずかしさを感じさせない新品であってほしい。世の評価は別にかまわない。古本の世界は、世の中の評価、他人の評価で価値が決まることがあるが、あれは意味がない。世評で価値が上下するなど、独自性がないことの証拠ではないか。あえていえば、ものの評価は私が作る。私にとって意味があればそれでいい。世間が何といおうと、PowerBook100シリーズには価値がある。私をひきつけてやまない魅力がある。
 100シリーズのデザインは、21世紀に通用するとはいえないかもしれない。色は灰色、分厚い、画面は小さい、大きな直径のトラックボール、どういうわけか重そうに感じさせる全体の印象、など。私はもちろん21世紀にも使うし、時代を超越した、飽きのこないデザインだと思っている。しかし、特に思い入れの内人が見れば、初めから古本のようなデザインなのかもしれない。古本に見える、そのこと自体が時代を超えているといいたいし、いかにも新しいと訴えていないところが、PowerBook100シリーズを愛する理由でもあるのだが。ちゃらちゃらした、流行そのものというデザインのマシンなど、半年経てば飽きられてしまうのではないか?
 神田の古本街を歩いていたころの私は、おそらく、秋葉原の電気街を歩いている今と、まったく同じ目つきをし、同じ歩き方をし、同じ嗅覚を働かせていたのだろう。古本街を歩いている時も、どの店に私の好きそうな本があって、どの道をどう歩けば最も効率がいいか頭に入っていた。秋葉原を歩いている今も、それは同じだ。秋葉原ではDOS/VおよびWindows系とMacintosh系が分かれているから、神田にくらべてルートはさらに限定される。古本の、手垢のついた感じが嫌だという人がいる。私はそれがいい。前の持ち主の気配が嫌だという人がいる。私はそれがいい。古いだけじゃないかという人がいる。古いだけなら私も嫌だが、中には古い新しいを超えた魅力を放つものがある。それを探すのが、古本のおもしろさである。マックも同じ、PowerBookも同じである。
 本がいいところは、持ち運びが簡単だということだろう。PowerBookも同じである。持ち運びができないと本ではない。読む場所を問わないというところが、本の特徴である。考えてみれば、私は書斎というものに何の魅力も感じない。仕事場はあっていい。しかし、仕事場でなければ仕事ができないというのは嫌だ。職業が原稿書きだからいえることだが、どこでも仕事ができる、場所にしばられずに仕事ができることに憧れ、原稿書きになったようなものである。特に喫茶店で、私は仕事がしたい。本を読むなら可能だ。原稿用紙に書くのなら可能だ。PowerBookに向かうのなら、それが可能だ。だから私はPowerBookが好きなのだ。持ち運びができて、使う場所を問わない。外出先でデータ通信が可能になったから、ますます持ち運びにふさわしいマシンになった。ただ、古いPowerBookには、バッテリーの問題がある。オールドPowerBook専用のバッテリーは時間が経てば供給されなくなるし、あっても高い。古いマシンだと、電池代の方が本体より高くなってしまう。専用バッテリーでなく、一般の乾電池で長時間動くようになれば、すべての問題は解決し、オールドPowerBookも現役マシンとして力を発揮してくれるだろう。2001年を迎えて、アップル社がサブノートマシンを出すのではという観測がしきりにとびかっている。将来性のあるサブノートを作るなら、まずバッテリーの問題を解決しなければならない。本には電池がいらない。本は電気に頼らなくても力を発揮してくれる。電気がなくては多くのことができなくなった現代、考えてみれば、これはたいしたことだ。

PB100ジャンクパーツ
保守用パーツと称して積み上げられた100シリーズのジャンク品



旅するPowerBook 目次へ

POWERBOOK ARMYバナー