torotta.poem
■ 第7回 トロッタの会

〜花となり生きる 人となり生きる
 思いを託す 色と形
立つ そこに居る 花の姿
 止まったまま 時間は水に浮かぶ
命も映えて 心に落ちる静かさ〜

2008年12月6日(土)18時開演 17時30分開場
会場・スタジオ リリカ

『嗟嘆』(といき)1989/2008
作曲/甲田潤 詩/ステファヌ マラルメ 訳詩/上田敏
ソプラノ/赤羽佐東子 ヴァイオリン/戸塚ふみ代 ピアノ/森川あづさ

『こころ』1993/2007
作曲/田中修一 詩/萩原朔太郎
ヴォーカル/笠原千恵美 ピアノ/森川あづさ

『花の記憶』〜朗読、ソプラノ独唱、ヴァイオリン、ピアノと花による〜 作品31B 2008
作曲/橘川琢 詩/木部与巴仁
ソプラノ/赤羽佐東子 朗読/木部与巴仁 ヴァイオリン/戸塚ふみ代 ピアノ/森川あづさ 花道/上野雄次

『齟齬』(そご)2008
作曲/山本和智 詩/木部与巴仁
朗読/木部与巴仁・堀江麗奈 ヴァイオリン/戸塚ふみ代・田口薫 ヴィオラ/菅原佳奈子 チェロ/對馬藍 トランペット/赤澤良之 ベース/山本圭一 ドラム/山田幸治

『ナホトカ音楽院』 2008
作曲/清道洋一 詩/木部与巴仁
ヴォーカル/笠原千恵美 朗読/木部与巴仁 ヴァイオリン/戸塚ふみ代・田口薫 ヴィオラ/菅原佳奈子 チェロ/對馬藍 ピアノ/森川あづさ 美術/山中紀子 文筆/後藤匡治

『チェロとピアノの為の狂詩曲』2008
第一楽章 Andantino-Adagio
第二楽章 Allegro energico
作曲/田中修一
チェロ/對馬藍 ピアノ/森川あづさ

『神羽(かんばね)殺人事件』2008
作曲/Fabrizio FESTA 詩/木部与巴仁
ソプラノ/赤羽佐東子 朗読/木部与巴仁 フルート/田中千晴 ヴァイオリン/戸塚ふみ代・田口薫 ヴィオラ/菅原佳奈子 チェロ/對馬藍 ピアノ/森川あづさ

『めぐりあい 冬』2008
作曲/宮崎文香 編曲/橘川琢 詩/木部与巴仁
出演者とお客様による合唱・合奏




嗟嘆(といき)

  ステファヌ マラルメ(訳・上田敏 )

静かなるわが妹(いもと)、
君見れば、想(おもひ)すゞろぐ 。
朽葉色(くちばいろ)に晩秋(おそあき)の
夢深き君が額(ひたひ)に、
天人(てんにん)の瞳(ひとみ)なす
空色の君がまなこに、
憧(あこが)るゝわが胸は 、
苔古りし花苑(はなぞの)の奥。
淡泊(あほじろ)き
吹上(ふきあげ)の水のごと、空へ走りぬ。

その空は時雨月(しぐれづき)、
清らなる色に曇りて、
時節(をりふし)のきはみなき鬱憂は
池に映(うつ)ろひ
落葉(らくえふ)の薄黄(うすぎ)なる
憂悶(わづらひ)を風の散らせば、
いざよひの池水(いけみづ)に、
いと冷(ひ)やき綾(あや)は亂れて、
ながながし
梔子(くちなし)の光さす入日たゆたふ。

物象を静観して、これが喚起したる幻想の裡(うち)自から心象の飛揚する時は「歌」成る。さきの「高踏派」の詩人は、物の全般を採りて之(これ)を示したり。かるが故に、その詩、幽妙を虧(か)き、人をして宛然(さながら)自から創作する如き享楽無からしむ。それ物象を明示するは詩興四分の三を没却するものなり。読詩の妙は漸々遅々たる推度の裡に存す。暗示は即(すなは)ちこれ幻想に非(あ)らずや。這般(しやはん)幽玄の運用を象徴と名づく。一の心状を示さむが為、徐(おもむろ)に物象を喚起し、或は之と逆(さかし)まに、一の物象を採りて、闡明(せんめい)数番の後、これより一の心状を脱離せしむる事これなり。 ステファンヌ・マラルメ

   *

こころ

  萩原朔太郎

こころをばなににたとへん
こころはあぢさゐの花
ももいろに咲く日はあれど
うすむらさきの
思ひ出ばかりはせんなくて。

こころはまた夕闇の園生のふきあげ
音なき音のあゆむひびきに
こころはひとつによりて悲しめども
かなしめどもあるかひなしや
ああこのこころをばなににたとへん。

こころは二人の旅びと
されど道づれの
たえて物言ふことなければ
わがこころはいつもかくさびしきなり。

   *


花の記憶

  木部与巴仁

【『花の記憶』は、華道家、上野雄次氏の作品に触発されて書いた。上野氏との出逢いは、ガラスの造形家、扇田克也氏の導きによる。刃物の上を渡る危うさと、冷気の音さえ耳にする静かさ。両面を持った上野氏であり、作品である。橘川琢氏が、自身の音楽様式〃詩歌曲〃として、ソプラノ、朗読、ピアノを用いて一曲に仕上げる。私の詩、橘川氏の曲だが、これは上野氏の花が音楽になるものだと、私は解釈している。 木部与巴仁】

  一

花となり生きる
人となり生きる
思いを託す
色と形
立つ そこに居る
花の姿
止まったまま
時間は水に浮かぶ
命も映えて
心に落ちる静かさ

咲けよ
音は無く
花となり生きる
人となり生きる

暗闇で 花は
変わらずにある

  二

すべてがあればいい
そう思い 花に向かう
人生の一切
世の一切が 器にあれ
思いは春にたかぶる
ところが 花は
そんな気負いなど知らぬ気に
自然なのだ
支えるものもなく
すっくと立つ
空気の隙間に
危うさと心地よさの
得もいわれぬバランス

面影が心に沁みる

生まれながらに持った
色と形
哀しみなど無縁
花は何も語らない
怖いほどの潔さ
その花に向けて
話しかけたい私がいた

  三

器の陰に
花を見る
じっとしている


氷雨が落ちた夜
伝え聞く
人の死
普段と変わらず
朝には新聞を開いた人が
昼にはこと切れた
ひとりの部屋で
ひとりのまま
好いた人があり
嫌った人があり
その一生を映していた
花の面

誰もいない
雨に濡れる公園
足跡だけを残して
あの人も あの人も
あの人も
死んでゆく

そんなつもりではないのに
心に残った
花の赤を
手向けようとしている

   *

齟齬

  木部与巴仁

月の齟齬
闇に浮かび闇に照る
冷たさを
手に取っていた

星々の齟齬
闇にきらめき闇に散る
戯れを
手に乗せていた

風と雲の齟齬
どこまでも続いて果てしなく
もつれあう
心を一瞬の微笑みに遺し

大地の齟齬
永遠の沈黙を聴いた
夢すら閉じこめ
重たい眠りをむさぼっている

海原の齟齬
群れなしてすべる白い波
泡立つ感情が
水平線を支えていた

鳥たちの齟齬
山に現われ森に消え
歌いながら舞う
その姿こそ魂だと考えている

花の齟齬
盗みたいのか
花の色は花のもの
時間さえ盗めはしない

【『齟齬』誤訳詩】鳥の調子外れのLa山、それ、私が次に端、および彼を微笑んで示させる夢なしでもいて、その人がすぐさまその人が心で閉じる地球の調子外れの永遠で静かな生活費に作るために聴いた海の調子外れがビーズですが、もつれて、形成する群衆の気持ちを空白にしてください、睡眠の狂人が悪党を望んでいて、彼に/をする、それ;そして、あなた、/、その人、滑りやすいあなたがその人が支えることができた/である、地平線、あなた、その人が花の色を盗むことができない/は息なしでいなくなって、雲では、そのaプレーが星の調子外れの不鮮明でその寒さをそれに選んで、ほろ酔いの調子外れは月の調子外れの不鮮明でそのIカップルを取りました;そして、あなたが花であると考えるaの調子外れを盗みたいなら手で不鮮明で光り輝いて、また、花のものの持続時間への手の上の不鮮明に撒かれるために、踊る図がIをゆったり過ごすのがそれに従って、見えなくなる、in、植林してください。そうすれば、歌うのは、精神です。

   *

ナホトカ音楽院

  木部与巴仁

  *「ナホトカ音楽院校歌」

 ああ
 パルチザンスクの川流れ
 わが学舎(まなびや)は丘に建つ
 ナホトカの地に幾星霜
 楽の音を聴く同胞(はらから)よ
 今宵は歌え
 潮騒に

 ああ
 シストラーの頂仰ぎ
 わが学舎に時流る
 ナホトカの名は不滅なり
 楽の響きに酔う客人(まろうど)よ
 集いて歌え
 鳥たちと

 ああ
 ヴォストークに夢を見て
 わが学舎を出づるなり
 ナホトカよいざさらば
 楽の道のり説く先達と
 よき日を歌え
 旅立たん

朝日に向かって建つ
ナホトカ音楽院に
幸運を求めてはいけない
ナホトカ音楽院はどこですか?
道ゆく人は答えなかった
ナホトカ音楽院ですよ
知らない 知らない
音楽学校です
そんなものは知らない
今ならいえる
丘の上に建っている
ほら! あの白い建物だよ!
疾走するトラックに背を脅かされ
一本道を歩いた

ナホトカの風景は
どこまでも白々しい
海風にさらされ
はげ落ちた
あらゆるものの彩り
落日すら
赤いのか?
まばゆさのない
紗幕ごしの町

人生の善と悪を
秤にかけた
夜毎の哀しみに襲われ
窓の向こうに
月を仰いで
ギシギシと鳴る
四本の脚
このベッドを脱け出せない
かすかに残った
私自身のぬくもり
のどの奥で
風が鳴る
よくない兆候だ
今はまだ
ごまかしているけれど
ふとんをかぶって噛みしめた
不思議に愛しい
心細さというやつ

鳩の群れが飛んでいる
千切れ千切れに
ナホトカで断片化された
意識と無意識
冷たすぎる海が
足元に広がる
私など見向きもせず
どこまでもばかでかい図体を
横たえて
この町で生きるなら
手袋は必要だ
残骸を
すくいあげなければいけないから

不自由な人生が
夜に浮かんだ
灯の数だけある
海に続く坂道
危ういバランスを取りながら
下りてゆく
足の裏にころがる
石ころを感じて

ヴァイオリンを弾くよりも
パンを食べている時に
哀しくなる私
音楽より?
生きることが哀しい?
受けとめるしかない現実が
手の中にあった
ただ一個の静物でありたい
勘違いでなければいい
たった今
生きていることが

公園というものは
どの国も同じだと思う
誰もいない
死と隣り合わせの場所
気まぐれなにぎわいは
公園だって嫌がる
静かにして
じっと
過ぎる時間に身をまかせよう
迎えにきてくれる
死が声をかけてくれる

恋の噂が
なかったわけではない
風に乗って
潮と油のにおいがまとわりつく
この岸壁で
女の肩を抱いた
手で手を包み
風の中に立っていた
青いスカーフを巻いて
どこかから来て
どこかへ行くのだという女の言葉
もういない
何もかもがその場限り
生きていることも?

今朝
あいつは死んだ
肺炎をこじらせて
部屋が隣だというだけの偶然
二十四歳の男に
人の死は重すぎる
波打つ金髪が
灰色にくすんでいた
死にに来たのか
このナホトカまで
縁起でもないよ
下宿の大家のつぶやきが
廊下に響く
丘の上に建つ白い建物に
幸運を求めてはいけなかったのだ

戸棚の傷は
いつからあるのだろう
目にしない日はないのに
初めて気がついた
えぐられてのぞいている
下塗りの青
前の住人がふるった
ナイフの跡?
それとも私が?
いつまでも見つめる
消したくても
消せない傷

古びたスーツケースを
人並みに抱えた
五年前
この四角い箱がすべてかと
重たいくせにちっぽけな
現実を噛みしめた
絶望と同居したくて
ナホトカをめざしたのではなかったのだ

人気(ひとけ)のない夏が
ナホトカにやってきた
寄せては帰すはずなのに
帰してばかりの波
形のない砂と戯れている
聞こえるだろう
あれは鳥の声じゃない
わかるか?
魚の声だよ
話しかけた男が
今はもう
ずっと遠くを歩いている

   *

神羽殺人事件

  木部与巴仁

  一

神の羽と書いて神羽(かんばね)と読む
北に向かって二時間
自動車(くるま)を走らせると見えてくる
荒々しく削ぎ落とされた三角の岩山
神羽山(かんばねさん)
麓には現代(いま)も
神々の遊び場という
手つかずの森が広がっている
人などまだいない時代(ころ)
神は神羽山の頂で白く大きな羽を休めた

三週間が経つ
男の死体が発見されたのは
神聖なその場所だった
立ち入りを禁じられた神羽山だが
航空写真を撮影するヘリコプターには何もかもが見渡せる
男は平たい石に横たえられ
真裸にされていた
首筋には深い刃物傷
ただし血は流れていない
誰が
どこで
なぜ殺した?
さらしものにした理由(わけ)は?

私は事件を追っている
ひとりの刑事として
頂に立って山を見下ろし
森を眺め
その向こうに続く町を見るたび
裸の感触をよみがえらせた
誰も知らない
男が私の恋人だった事実を
誰も知らない
私のからだに
男の生命(いのち)が宿されている事実を
ひとりの刑事として
私は恋人が殺された理由を探している

  二

男の人生から消されていた私
手帳にも電話にもコンピュータにも
私の痕跡は見当たらなかった
自動車デザイナーとして海外にも知られている
結婚して子どもまでいる男なのだ
記憶の中にいればいい
ふたりで相談して納得していたのに
調べれば調べるほど虚しかった
彼の痕跡は残っている
私のからだに
もう三か月

人さまに恨まれるような主人ではありません
それは私がよく知っている
変わった様子など何もありませんでした
それも私がよく知っている
金銭や女性関係のトラブルもなかったと思います
誰でもない私がその女性なのだ
初めて訪れた男の家だった
初めて向き合う男の妻だった
ぽつりぽつりぽつり
しかしはっきりとした言葉で語っている
やつれているが美しい
私はこの女と
神羽山でさらしものにされた男を分け合っていた
今は妻よりもきみを愛している
男の言葉を信じた
きみといる方が楽しいよ
信じるしかなかった

いえない
誰にも
男とのことは
上司にも同僚にも
私は男の死に無関係だし
私の存在が事件を引き起こしたわけでもない
いわなくていい
私がいなくても男は殺されていた
打ち消しながら思っている
私がいたから男は殺されたという可能性を
ただひとり
誰にもいわず
二十四時間打ち消し続けている

  三

手がかりは未だありませんか
壮年の宮司が茶を出してくれる
お山の湧き水で煎れたお茶でございます
神羽山を背にした神羽神社
神域を汚されて宮司様はさぞお腹立ちでしょう
水を向けたが返事は意外なものだった
人の魂はなべて天に帰ります
お山の頂は天に近い
亡くなられたのは不幸だが頂にあったのは幸いです
ご迷惑ではないのですか
私は魂の道案内をいたすまで
迷惑でもそうでないとも申せません
白い影が視線の彼方を横切った
気を取られた私に宮司は微笑んでいう
私の妹です
殺された男の妻だった
あの子には不幸なことでございました
失礼いたします
音もなく立って消えてゆく

恋人のいない女が
山の頂で泣いている
手を伸ばせば届く
満月に向き合い
涙も声もなく
泣き続けている
どうして死んでしまったの
あなたの生命(いのち)はここよ
生まれてくる
愛し合った証として
父親のいない子どもが
不幸かも知れない
でも不幸にすがるしかない
星屑が散らばっている
あなたの魂は空にあるのね
それなら手を取って
いつものように
あなたを奪ったのは
どこの誰?
教えてほしい

その夜
女は地上に降りなかった
最も天に近い場所で
朝を迎えた

  四

男が死んだのになぜ妻に嫉妬するのか
束の間しか会えない
必ず妻と子の待つ家に帰ってゆく
家族を愛している男なのだ
嫉妬をしない女
私はそれでいいと思っていたのに
苦しくて心を引き裂いてしまいたい

ご主人とは幼なじみだそうですね
ええ生まれた時から
結婚するのが当たり前だと思って育ちました
離れていても不安などございません
プロポーズの電話はイタリアから
自動車デザインの勉強に留学していたのです
私だってと思いながら
かなうはずのない
時間の重みにおしつぶされそうになる
一心同体として一組の男女が生きてきた
その男の私は何を知っているの
刑事さんはご結婚なさっていらっしゃいますか
私はしていないと答える
まだお若いしお仕事もたいへんでしょう
どんなに調べても
おわかりにならないことがございます
いえ隠しているのではありません
それは私にも主人にもわからないこと
言葉にならない思いというものがあるのです
水の一滴(ひとしずく)を思わせる
妻の静かな言葉だった
あなたにだってわからないことはある
私のからだは生命を育てているのよ
言い切りたいと思いながら
嫉妬の醜さを感じている
気がつくと私はじっと見られていた

その妻が死んだ
神羽山の頂で男と同じ真裸にされ
石に横たえられていた
首筋の刃物傷も同じだった
発見者は
興味本位で禁制の地に踏みこんだ都会の若者
どこへ行ってしまうのあなたたちは私を置いて
空に向かって叫びたかった
聞く者などどこにもいないと思いながら
魂の抜けた女のからだを見つめながら

  五

鳥葬という行いがございます
チベットなどに伝わる
とむらいの方法が日本にもありました
神羽の地はそのひとつ
私どもの家系が
鳥葬の務めを果たしてまいりました
現代(いま)は法律で禁じられておりますが
魂を天に送るため
死体を鳥に食べさせる考え方には
現代人など及びもつかない長い歴史があるのです

取調室の宮司は淡淡としていた
山頂に遺体を遺棄したことの罪悪感は
少しも見られなかった
妹は夫と再会するため天に上りたいと申しました
その心情はよくわかります
わかるなら私は魂を導いてやらねばなりません
これから死ぬという連絡を受けて
妹の家に行きますと
刃物を首に突き立てたまま
風呂場で死ねずにおりました
すぐ楽にしてやり血を流しきった後で
妹をお山に運んだのでございます

男を殺したのは妻だった
夫は自分に理解できない世界を持つようになった
それが何かはわからなかったが
一心同体のはずが
そうではなくなっていると感じた
だから夫の魂を天に送ろう
元のままの夫でいられるよう
この世の生を断ち切ろう
眠っている夫の首筋に刃物を突き立て
動かなくなるのをじっと待った
そして兄の宮司を呼んで
鳥葬にしたいと告げたのだ
あなた方はとむらいを妨げました
澄んだ目で宮司はいった
鳥葬はかないませんでしたが
私の祈りでふたりの魂はいま天にあります

神羽神社が鳥葬を伝えると書いた文献は
どこにもなかった
研究者も一笑に伏した
凶器は難なく押収できたが
妻は死んでしまった
宮司の証言は裏づけられないままである
私も鳥葬にしてほしい
男の魂が天にあるのなら死んで会いに行きたい
鳥葬にして
あの宮司ならきっと話を聞いてくれる
戒めを解き放ち
神羽山の頂へ運んでといえばいい
生まれない子は哀れだが
みごもったままでかまわない
お願い
鳥葬にして
お願いだから私を鳥葬にして

   *

めぐりあい 冬

  木部与巴仁

木枯らしが冬を告げるころ
わたしたちはめぐりあう

生まれ変わる
今は死んでも
落ち葉の下で
目を閉じた

木枯らしが冬を告げるころ
わたしたちはめぐりあう

銀色の糸が舞う
旅に出た
小さな蜘蛛
雪迎え
さよならの時

どこへ行くの?
わからない でも
わたしは生きられる
ありがとう
あなたの歌を聴いたから