■ 第19回 トロッタの会

夏の朝
太陽はどこまでも大きく
膨れあがって
燃え尽きる
羽を焼かれて落ちる

初めの死



2014年6月14日(土)18時開演 17時30分開場

会場・早稲田奉仕園 リバティホール


「夜明けの円盤」【2014・初演】
〈作曲/酒井健吉 詩/木部与巴仁「夜明けの円盤」より〉
詩唱/中川博正 ヴィオラ/神山和歌子 ギター/萩野谷英成

「夜の終わり」【2014・初演】
〈作曲/田中隆司 詩/木部与巴仁「夜の終わり」より〉
ソプラノ/福田美樹子 クラリネット/藤本彩花

「六月 いまは遠く」【2014・初演】
La Nouvelle Chanson de QUITSCAWA Migacou
〈作曲/橘川琢 詩/木部与巴仁「六月 いまは遠く」より〉
ソプラノ/柳珠里 詩唱/木部与巴仁 ヴァイオリン/戸塚ふみ代 ピアノ/森川あづさ 花/上野雄次

「Ricercare per trio」【2007】
〈作曲/酒井健吉〉
クラリネット/藤本彩花 チェロ/寺島志織 ピアノ/森川あづさ

「ロルカのカンシオネス・13の西班牙古謠より」
〈採譜と曲/フェデリコ・ガルシア・ロルカ 編作/田中修一〉
「三枚の葉」「セビリヤの子守歌」「モンレオンの若者たち」
ソプラノ/福田美樹子 詩唱/木部与巴仁 ヴィオラ/神山和歌子 ギター/萩野谷英成 コントラバス/中村尚子

「エスノローグNo.6 “刺客傳”ー木部与巴仁の詩に依る」【2014・初演】
ETHNOLOGUE No.6 “Biographie de l'assassin”
(Poem by KIBE Yohani)for Bass Solo and Piano,Contrabass
〈作曲/田中修一 詩/木部与巴仁「組曲・刺客列伝」より〉
バリトン/篠原大介 ピアノ/河内春香 コントラバス/中村尚子

追悼・今井重幸 ピアノと弦楽四重奏のための「仮面の舞」【1996】
〈作曲/今井重幸〉
ヴァイオリン/加藤大貴・戸塚ふみ代 ヴィオラ/神山和歌子 チェロ/寺島志織 ピアノ/森川あづさ

「桜の森の満開の下ー坂口安吾の作品によるー」【2014・初演】
〈作曲/平田聖子〉
ヴァイオリン/戸塚ふみ代・加藤大貴 ヴィオラ/神山和歌子 チェロ/寺島志織

「微睡(まどろみ)」【2014・初演】
〈作曲/高橋通 詩 木部与巴仁/「微睡」より〉
ソプラノ/柳珠里 テノール/根岸一郎 クラリネット/藤本彩花 ヴァイオリン/戸塚ふみ代 チェロ/寺島志織 ピアノ/河内春香





*第19回「トロッタの会」全詩です。作曲者の意図などにより、詩と音楽に相違する場合がありますことをご了承ください。

夜明けの円盤
木部与巴仁

不穏な
午前四時の空に
浮かぶ
円盤群は
おびただしく
窓を隔てたテーブルに
あなたがひとり
眠っている
黒髪を広げて

どうする?
わからない
行き場のないふたりが
夜を過ごせる場所はここしかなかった
駅前で見つけた
ハンバーガー店(ショップ)
二十四時間営業

紙コップにしみついた残りかす
コーヒーの
醜い形
私の思いにそっくりだ
円盤の人よ笑え
ばかな若者
地球人は皆ああかと
白んだ空で笑っていろ
首を振るたび
あなたの髪は波を打つ
夢に見るのは
私じゃない

円盤が消えてゆく
一機
また一機
あんなにたくさん見えたのに
一機
また一機
そしてまた一機
もうすぐ
電車が走るだろう
終わりがやって来るだろう
(2014・4・4)



夜の終わり
木部与巴仁

夜に 女がうたう
誰かが死んだと 告げている声
血まみれの重たい掌(て)をぶらさげて
歩いている うつろな影

ここはどこ 私は知らない
どこでもないよ どこにもいないよ
聞こえないから 私にはもう 何も
裸の背中に 夜が広がる

終わったね 何もかも
叫び声 いつか愛した男(ひと)の
(2013・10・23)


六月 いまは遠く
木部与巴仁

いってしまった
あなたに
捧げる歌を
探して

街角の思い出
こわれた石畳に
あなたの靴音を聴く
街路樹の陰

いってしまった
あなたに
また会いたくて
歌っている

ふと
思い出す
いさかいした
駅前の
理由(わけ)もない
あの日の涙

いってしまった
あなたに
手紙を書いた
捨てようとして


あてのない
太陽が落ちる方へ
あなたは行こうとした
私は黙って
後を追う

いってしまった
あなたの写真
残したくなかった
面影

ここに
あなたがいた
もう
誰もいない部屋
差し出す手に
触れるひとはなく
目を閉じて
聴いている
六月の
ため息
(2014・3・7)



ロルカのカンシオネス・13の西班牙古謠より
「ハエンのモーロ娘たち」
「セビリヤの子守歌」
「モンレオンの若者たち」

Las Morrilas de Ja~n ハエンのモーロ娘たち

三人のモーロ娘が私をとりこにした
ハエンの
アクサとファティマとマリエーン

三人のモーロの別嬪が
オリーブ摘もうと出かけて行った
ところが摘まれた後だったのさ
ハエンの
アクサとファティマとマリエーン

とうに摘まれた後だったので
心を落として帰っていった
顔の色もなくしてさ
ハエンの
アクサとファティマとマリエーン

三人のモーロ娘が意気揚々と
三人のモーロ娘が意気揚々と
林檎を摘もうと出かけて行った
ハエンの
アクサとファティマとマリエーン

娘たちに訊いてみたのさ
「きみたちは誰?
ぼくの心を奪ったきみたちは?」
「今はキリスト教徒で昔はモーロ娘。
ハエンの
アクサとファティマとマリエーンよ」

三人のモーロ娘が私をとりこにした
ハエンの
アクサとファティマとマリエーン



Nana de Sevilla セビーリャの子守歌

かわいい亀さん母さんいない
ああ
母さんいないよ、はい
母さんいないよ、いいえ

ジプシーが生んで
道端に捨てたのさ
ああ
道端、捨てた、はい
道端、捨てた、いいえ

かわいい坊やは
揺り籠ないよ
ああ
揺り籠ないよ、はい
揺り籠ないよ、いいえ

父さんは大工だ
ひとつ作ってくれるだろう
ああ
ひとつ作ってくれるだろ、はい
ひとつ作ってくれるだろ、いいえ



Los mozos de Monle穎 モンレオンの若者たち

モンレオンの若者たちが
朝早く畑仕事に出かけたよ
アイ、アイ
朝早く畑仕事に出かけた

闘牛に行こうと
ゆっくり着替えをしたくてさ
アイ、アイ
ゆっくり着替えをしたくて

だが、あの毛深い女の息子は
着替えを出してもらえずだよ
アイ、アイ
着替えを出してもらえずだ

「闘牛に行かなくちゃ
衣装を他人に借りたって」
アイ、アイ
「衣装を他人に借りたって……」



さて闘牛場に現れたのは
勇ましい四人の若者
アイ、アイ
勇ましい四人の若者だ

マヌエル・サンチェスが牛にけしかけた
けしかけなりゃよかったんだ
アイ、アイ
けしかけなりゃな

草鞋の端を引っ掛けられて
広場いっぱい引きずられてさ
アイ、アイ
広場いっぱい引きずられて

牛がやつを放した時は
もう血まみれだった
アイ、アイ
もう血まみれだ



モンレオンの金持ちに頼んで
牛と車を借りた
アイ、アイ
牛と車を借りたのさ

マヌエル・サンチェスを運ぼうとて
牛に命を取られた男
アイ、アイ
牛に命を取られた男を

毛深い女の門前で
車を停めたよ
アイ、アイ
車を停めた

「これがあんたのせがれだよ。
お望みどおりに帰って来たぜ」
アイ、アイ
「お望みどおりに帰って来たぜ」



エスノローグNo.6“刺客傳”〜木部与巴仁の詩に依る〜
組曲・刺客列伝 木部与巴仁

其の一

士(をとこ)は死するなり おのれ知る者のため

彼あり
心 猛くして
力 大なり
三度び戦(いくさ)に敗れ
和睦の席につく
敵(かたき)となす王に向かふや
彼 匕首を手に迫るなり
その姿
生命(いのち)を捨つる覚悟明らか

怒りををさめ
奪ひし土地を還(かへ)すと誓ふ

士(をとこ)は死するなり おのれ知る者のため
(2010・6・27)



微睡(まどろみ)
木部与巴仁

まどろみのうちに
私は三度
死ぬ

夏の朝
太陽はどこまでも大きく
膨れあがって
燃え尽きる
羽を焼かれて落ちる

初めの死

冬の夜
逃げ惑う群集が
私を踏みつけてゆく
どこへ?
声もなく
起きようとして
起きられず
ぼろとなって死んだ
二度目の死

生と死の往来
死ぬ
生きる
死ぬ 生きる
そして
死ぬ

春の午後
扉を開けた女が
私を刺す
深く
痛みはなく
しかしくらべようのない
絶望感が
部屋をみたした
三度目
(2014・3・8)