「3400cを普通に使う会」タイトル

第9週:01年3月7日〜3月13日


「STUDIO VOICE」 3月7日
私の周辺機器シリーズ・1

「STUDIO VOICE」の1991年12月号は、私とマックを結びつける原点である。マックを特集した雑誌で、これ以上のものには、いまだお目にかかっていない。出会った時期や環境によって、忘れ難いものは異なるだろう。この「STUDIO VOICE」も、他人にとっては、たいして意味を持たないかもしれない。しかし、私はこれが好きだ。ページをめくるたびに、何かができる、何かが生まれそうだ、私にも何かができるに違いないと確信する。IIcxにフロッピーをさしこんでいるイラストにかぶせて、紅い文字で「MAC-LEGEND」。特集名そのままである。マニュアルのイラストをそのまま載せていいのかとも思うが、それはあえて問うまい。
 私にとっての周辺機器は、外付の各種ドライヴや拡張カードや接続ケーブルの類ではない。3400cを普通に使おうという、確かな思いを抱かせてくれるのは、単行本や雑誌といった出版物だ。3400cの周辺を固めてくれる、それらの大切なアクセサリーを取り上げてゆく。
「ハイパーメディアとしてのマッキントッシュ」(室井尚)、「マッキントッシュ小史」(志賀隆生)、「マック環境のフロント・ライン」、「マッキントッシュの限界」(岩谷宏)、「マック・ベスト・バイ・ガイド」(安田幸弘)、「マッキントッシュ・ブックス20」(岡野泉)……。「STUDIO VOICE」91年12月号の目次に並んだ主な記事は、何度読んでも飽きない。いや、ほとんど読んでいないかもしれない。ながめているだけで満足する。私はこの号を、どういうわけか3冊持っている。どういうわけかなどとしらばっくれないでもいい。好きだから持つのだ。何冊も。ある古本屋には3000円で売られていて、さすがにそれは買わないのだが、1冊も持っていなかったら買うだろうと思う。そして、ただ、ながめる。要するに、モノとして好きなのである。

3月8日
 ただ、中には繰り返して読まずにいられない記事もある。それは阿部摂子による、フリードリヒ・フレンクラーへのインタビュー。初期のマックには、“スノーホワイト”というコンセプトがあったことが知られている。ドイツのデザインオフィス、フロッグデザインによるものだ。フロッグデザインがアップルの仕事から手を引いた後は社内デザイナーに仕事が受け継がれたが、もはや昔日の面影はないという意見さえある。当然ながら3400cも、その批判の対象になる。インタビューされたフリードリヒ・フレンクラーは、かつてフロッグデザインの中枢で働いていた人物。その彼が、マックとスティーブ・ジョブズについて、こう語っている。
「マッキントッシュにはポップの要素は全くありません。確かにジョブスはアメリカ人ですが、ちっともポップじゃないんですよ。彼はボブ・ディランに傾倒していますからね。逆にフロッグデザインの社長であるエスリンガーはポップミュージックが好きですが。マッキントッシュは非常に洗練されたバウハウス・デザインです。簡素で力強く息の長いデザインです。ポップアートはもっとフレッシュでしょう? ジョブスのメッセージはまったく逆。もっとヘビーでシリアスです」
 ポップ、ボブ・ディラン、バウハウスなど、私たちが考えるべき概念が、短い言葉の中に、いくつも出ている。マックはアメリカ生まれだが、ドイツの精神がこめられている。これは重要な事実ではないだろうか。
 これ以降、「STUDIO VOICE」はマックの特集を行っていない。特集に値する存在ではなくなったということだろう。その理由もまた、考えてみるべきだ。iMacでは「STUDIO VOICE」に取り上げられない。この雑誌を何らかの権威とするのではない。権威にはまったく逆の立場を取る雑誌だが、相手にされないという事実だけは肝に銘じるべきだ。

「POPEYE/MacBoy」 3月9日
私の周辺機器シリーズ・2

「POPEYE」が1993年に臨時増刊号として11月25日付で発行した、「MacBoy」。“contents”と書かれた目次ページを見よう。まず、「宇宙(コンピューター)が部屋にやってきた」「どうしてコンピュータ使うの?」「図解・ひと目でわかるコンピューターの使い方」。中には「やってみたいけど、わからない。パソコン通信の疑問に答えます。」という記事もあって、今ほどパソコンが普及していなかった、1993年という時代をしのばせる。当然、インターネットという言葉はまったくみあたらない。そして、続き。「21人のマックユーザーに聞く どんなふうに使っていますか?」「アメコミ版 マッキントッシュ物語『リンゴ甘いか酸っぱいか』」「パソコンはお部屋の中のアミューズメントパーク」「ソフトってどんな人が作ってるんだろう」、さらにはアメリカ西海岸、ベイエリアと呼ばれる地域のマックユーザーを紹介した「Mac in the U.S.A フランクはある朝突然に……。」……。
 この「MacBoy」、つい先日の3月8日に手に入れたばかりだ。Yahoo!オークションで、福岡のY氏が主品したものを落札させていただいた。読み出してから日が浅く、おもしろいおもしろいというばかりで、それは確かなのだが自分のものになっていない。それなのにここで取り上げたのには理由がある。「MacBoy」が発売されて2年後の1995年1月1日付で、「POPEYE」に別の臨時増刊号が現われた。発行年から想像がつくかもしれないが、「WiNers」と題され、「Windows95 stylebook」と副題をつけられた、Windows95の特集号である。表紙には吉川ひなのが起用され、“パソコンといっしょなら遊んであげる!”といっている。Windows、とりわけ95と聞くと拒否感を覚える私だが、しかし、この臨時増刊号はよくできている。先の「STUDIO VOICE」同様、私はこの「WiNers」を何度もながめ、モノとして気にいっている。当然、3400cを普通に使うというテーマにも、「WiNers」で読んだこと、知ったことは、大いに反映されている。

「POPEYE/WiNers」 3月10日
 カフェが好きだ。私のサイト「IRREGULAR」でも、ただいま仮営業中ながらInternetCafe TROTを運営している。「POPEYE」の臨時増刊号「WiNers」を、Windows95の特集号なのに周辺機器と認めるのは、インターネットカフェの様子を存分に見られるため。これは2年前の「MacBoy」には求められない。「コンピュータの国、アメリカに追いつけ!」という記事に取り上げられたのは、ニューヨークのCYBER CAFE、@cafe、dx.com、ハリウッドのINDUSTRY、ロスアンジェルスのCyber Javaといったところ。こんなところで原稿を書ければいいし、インターネットを体験できればいいし、さらにはコーヒーを飲めればいいし、果物の一品でも二品でも盛り合わせでも食べられればいい。最後の果物はともかく、こうしたことのすべてを体験できるのは、インターネットカフェしかない。誰からも干渉されず、一人だけの時間を過ごす。時には人と語り合ってもいいが、それでは原稿が書けない。私にとって大事なのは、とにかく原稿を書くこと。喫茶店の時代から、私は原稿用紙に向って、喫茶店で原稿を書いていた。喫茶店の存在意義は、それがすべて。申し訳ないが、コーヒーの味の判断は、原稿を書くことの次、さらにその次に来る。「WiNers」は教えてくれた。世の中にはインターネットカフェというものがあることを。そして思った。インターネットカフェにPowerBookを持ちこんで原稿を書きたい。
 もちろん、これは矛盾している。インターネットカフェにはマックに限らずマシンが用意されているのだから、PowerBookを持ちこむ必要はないのである。しかし、それでは原稿が書けない。パソコンが道具であるとしよう。誰しも使いなれた道具でなければ本当の仕事ができないのはわかりきったこと。片手間のメモならいいが、清書までもっていける原稿は、よその道具では書けない。原稿用紙ですら、他人に与えられたものでは、どことなくよそよそしい感じがする。だから私は、3400cをインターネットカフェに持ちこんで原稿を書けたらいいと思う。あの重いものを? なかなか難しい。5800cから2400cを切り離して持っていくことになるのだろう。
 ところで、最後に指摘しておこう。この「WiNers」、Windows95の特集といいながら、写っているマシンにはマックが多いのである。27ページ、映画『ハッカーズ』の1場面にはDuo。35ページ、ニューヨーク大学におけるインタラクティブ講座では、8100らしきタワー型。37ページ、イメージインフォというファッション関係のオフィスに並ぶのは、7100らしきデスクトップ型。この会社が作っているというカタログの画面も紹介されているが、マックで作っているから、見た目は当然、Widowsではない。いいのだろうか? 38ページ、UCLAの学生の部屋が出ているが、ここに520らしきPowerBookがある……。他にも6100らしきピザボックス型、PowerBook100シリーズが写ってしまっている。あら探しをしているときりがないが、こんな楽しみ方ができるから、雑誌というのは手放せないのだ。


 3400cのフロッピードライブが変調をきたしている。フロッピーをなかなか読まない。1枚目は読んでも、2枚目、3枚目と入れ換えるにしたがって、読みこまなくなってしまう。フロッピーのアイコンがデスクトップ上に現われてくれないのだ。実はこの現象、今に始まったことではない。購入してすぐ、このような状態が時たま発生することに気づいていた。しかし、フロッピーをあまり使わない上、大方は何の問題もなく読むのだから、問題を根本的に解決しようという気にならなかった。それが今夜は、立て続けに読みこみ異常。ディスクウォリアーなどの修復ソフトでは、問題が検出されない。システムのせいではなく、フロッピードライブがおかしいのか? 試してみる必要がある。

「2400cパーフェクトガイド」 3月11日
私の周辺機器シリーズ・3

 PowerBookに関する本は何種類かあるが、おそらくこの『PowerBook 2400c Perfect Guide』(ソフトバンク刊・98)は、最高の内容を持つ一冊だろう。これだけの本の執筆に参加できた人々に、私は正直に嫉妬している。さらに、これだけの熱意をかきたてる2400cというマシンは、長年の憧れだった。つい先日、私はその憧れのマシンを手に入れた。借金をして。私はその結果に満足している。借金したことにも後悔していない。ただし、正直にいう。憧れは憧れている時が華。手に入れたものは、決して憧れをしのがない。
 どうして『PB3400c パーフェクトガイド』が出ないのか。PowerBookそれ自体としての性能は、3400cの方が断然すぐれているではないか。私はそんな思いに苦しめられた。「澄んだ空は青く、高い。最近手に入れた自転車で、原宿に出かける。自転車で走ると、東京の街にもアップダウンがあることがよくわかる。街が、立体的に感じられる。なにしろぼくの自転車は安物で、変速ギアがついていないのだ。/紫色のエルベ・シャペリエのバックパックには、PowerBook 2400/180が入れてある」。「PowerBook 2400cのある風景」と題された、山川健一のこんな文章を、3400cを主人公にして書いてみたいと思った。「暑い日だった。喉が乾いたので、自転車を歩道に止め、表参道にあるカフェ・ド・ロペに入る。この界隈には新しいカフェがたくさんできたが、ぼくはなんとなく古くからある店のほうが好きだ」。2400cでなく、3400cを持って、カフェ・ド・ロペとやらに入ってみたい。「長い小説を書くのに行き詰まると、ぼくはPowerBook 2400cをバックパックに入れて外に出る。近所に、カフェというよりは穴蔵みたいな喫茶店があって、そこに出かける」。その穴蔵には3400cこそふさわしい。どうして2400cなのだ。あんなちっぽけなマシン……。
 ちくしょー!
 それはいい。そんな個人の思いなど、どうでもいい。世の中はもっと大きなところで動いている。しかし、その大きなところに参加できない人間がいる。何をこちょこちょ小さなところで動いている? そういいたくなる人間がいる。私のことだ。そんな私を強烈に刺戟したのが、この「パーフェクトガイド」だった。これを読んでいると、私など何にも参加できないまま野垂れ死ぬしかないという事実が、眼前に迫ってくる。どうして私はこの本を書けなかったのか。私は書くことを一生の仕事にしている人間だ。私はこの「パーフェクトガイド」を書きたかった。しかし、この本の目次に、私の名前はない。そのこと自体に、私は強い憤りを感じる。これを編集したPowerbook 2400cパーフェクトガイド編集委員会に怒っているのではない。私自身に怒っている。他人に怒ってどうする? 怒るべきはおのれ以外の何者でもない。悔しい。心底。


 昨夜のフロッピードライブ問題の続き。仕事場から190csのフロッピードライブを持ち帰り、3400cのものと入れ換えた。何と、これが調子いいのである。すいすい読んでくれる。いや、調子よく読むのが本来である。3400cのフロッピードライブがおかしかったということに決まった。先日までは190csそのものがなかったのだから、このような方法は試せなかった。それが今では、2台の190csを持つ身分。190および5300シリーズは3400と共通点が多い。そのせいで救われた。不良品のフロッピードライブはお払い箱か修理してみるとして、190csのものを3400cにさしておこう。ただ、これで問題になるのは190csのフロッピードライブが、1台分なくなってしまったこと。Yahoo!オークションをのぞいてみたら、5300用FDドライブとして、開始金額2,000円で出品されていた。残り4時間の段階で、誰も入札していない。さっそく2,200円の値段をつけた。さて、落札できるだろうか。終了時間は午前5時である。

3月12日
 手元の『PowerBook 2400c Perfect Guide』は、2度目に買ったものである。初めてのものは、どういうわけか紛失してしまった。それがどこで、どういう具合になくしたか、いまだに思い出せない。あそこで忘れたとか、ここに置いていたはずだとか、そういう記憶がいっさいないのである。仕方なく、改めて買い直した。
 この本は、何度風呂に持って入ったことか。ぬるま湯につかって、静かにページをめくってゆく。湿気はあるし、数センチ下はたっぷりしたお湯である。それにしては、ページがまったくゆがんでいない。きれいである。私は帯をはずして扉にはさんでおくので、他の本の場合、しばしば帯が落ちて湯の中で浮いていたりするのだが、「パーフェクトガイド」の場合、そういうこともなく、今日に至っている。ついでにいえば、トイレにも持って入るのだが、まあ、それはいいだろう。とにかくあらゆる場所に連れていかれる本。それが『PowerBook 2400c Perfect Guide』だ。
 すでに書いたが、2400cを手に入れてすぐ、ばらばらにした。もう1台ある起動不能2400c、その故障箇所を調べながら、パーツを交換するためである。その時は、この「パーフェクトガイド」を重宝した。この本がなければ、解体できなかったと思う。他にも発行されているPowerBook関係のムックにも2400cを解体する順序は記されているが、「パーフェクトガイド」ほど詳しくない。おかげで、傷ひとつつけずに組み立てることができた。
 3400を含めて、PowerBookについての思いのエッセンスが、この本にはこめられている。100シリーズにもDuoシリーズにも500シリーズにも5300シリーズにも、その後のG3シリーズにもG4にも通用する。反対の立場はあるかもしれないが、たとえあったとしても、反対されるだけすばらしい。態度があいまいでは、反対する気も起らない。……しかし、自分の書いた原稿に人が反対していると聞くと、やっぱり頭に来る。表面は平静を装って、理念としては反対されてもいいと思いながら、他人の批判を聞くのは嫌だ。批判されないようなものを書きたいのだが、これだけ地球上に人がおおぜいいると、そうはいかない。
 であるならば、どうせ反対されるのだ、私も1冊くらい、PowerBookについての本、雑誌を作りたいのである。諦める気はない。諦めないという気を起こさせてくれるのも、『PowerBook 2400c Perfect Guide』があるせい。気持ちの基準になっているのだ。


 フロッピードライブの件は、片がつきそうだ。Yahoo!オークションに出ていた5300用FDドライブは、私が落札した。競争者がいなかったので、開始金額の2,000円になる。これで、190csの横腹に、ぽっかり黒い横穴を開けずにすんだ。

3月13日
私の周辺機器シリーズ・2補遺

 先に書いた「POPEYE」臨時増刊号「MacBoy」について、書き加えておこう。Yahoo!オークションでこれを出品していた福岡のY氏が連絡をくれ、同じものを2冊手に入れたのだが、知り合いで欲しい人がいるなら、同じ落札価格で譲ってもいいという。ほしい人がいなければ、若干の金額を乗せて開始価格とし、再びオークションにかけたいのだが、と。つまり、私に優先権を与えてくれたわけだ。ありがたい話である。さっそく大阪の友人に事情を話して私経由で購入してもらい、私もまた、仕事場用にもう1冊買うことにした。先の入手分は、自宅用である。何だ、独占じゃないかと思わないでほしい。オークションにかけた方が、世の中の多くの人の目に触れる機会が生まれるのに? いや、独占かもしれないが、好きな雑誌に対しては、このような扱いを常にしている。周辺機器シリーズの第1回で取り上げた「STUDIO VOICE」など3冊ある。これはマックに関係ないが、かつて刊行されていた「新劇」の、1977年のある号など、10冊近く持っていると思う。
 単行本にくらべ、使い捨てのようにされる雑誌だし、そうされても仕方のない面もある。次から次へと発行されるのだから、捨てなければ始末に終えない。また、実際に使い捨てなくても、持ち主に圧迫感を与えない手軽さが、雑誌のよさであろう。だからこそ、私のような者は、何冊も持っていたい。特に「POPEYE」のように、アメリカ的消費文化を体現するかのごとき匂いをただよわせた雑誌は、何冊出てもいいし、何冊持っていてもいい。アメリカ文化を無条件に受け入れることには抵抗感を持つ私だが、気楽さにおいて、アメリカの右に出る国はないだろう。この気楽な気分を、即使い捨てに結びつけなければいい。親しみやすさに転化すればいい。
 それにしても、思う。「MacBoy」を手に取るたびに。マックというもの、アップル社によって世に出されるコンピュータというもの。それらもまた、雑誌のような印象を人に与える。何台も持っていたくなる。あの重厚長大な3400cですら、私は何台も持ちたい。あいにく1台しか持っていないが、許されるなら、自宅と仕事場に置きたい。重いといい、大きいといっても、面積に限っては「POPEYE」とほぼ同じではないか。
「POPEYE」の「MacBoy」は、Windows95を特集した「WiNers」より、パーソナルコンピュータにふさわしい存在感を持つ。その軽さ、決して悪いことではない。



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